事件の終わり――西川遼介

 なぜ僕はここにいるのだろう。



 コンクリートの床、鉄格子のはめられた窓、そして冷たい空気。



 着心地の悪い囚人服、伸び放題の髭、手入れが出来ずに脂ぎった髪の毛。



 僕は今、みじめな姿でみじめな場所の中にいる。

 僕は、何も悪いことなどしていない。
 ただ、1人の少女に恋をして、自分のものにしたいと思って、そのための行動を起こしただけなのに。



 それが有罪とされ、そして僕は刑務所に閉じ込められている。それはどうしても理不尽なことにしか思えない。



 僕には人を好きになる権利は無いのだろうか。そんなことを決めつけたのは、どこのどいつだ。






 そんな世界には、いつか復讐を。



 そしてそれが終わったら、今度こそ彼女を僕のものにしよう。

 日常がとてもつまらなかった。



 会社の言いなりになって、仕事をして。
 それ自体はとうに慣れたが、課長は僕をいつも叱り飛ばしてばかりいた。
 自分の無能を部下に押し付ける、人として最悪なヤツだった。



 その押し付けを甘んじて受ける僕は、なんと崇高な存在だろう。
 無能な課長を許し、自分のストレスへと転化させて、吐き出してやっているんだ。



 その吐き出し口として、彼女の存在は大いに貢献した。僕にとっての癒しだった。
 彼女の存在が、僕の日常を支えていたといっても過言ではない。






 けれど、その彼女はいつも何かに怯えていた。道行く人から距離を取り、いつも道端を歩いていた。
 まるで触れられることすら拒絶するように。



 その苦しみから救い出せれば。彼女が笑ってくれれば、それは僕にとって限りない喜びだっただろう。






 僕もまた、彼女をただ離れた距離から見守っているだけの存在だった。



 だからこそ、僕は彼女を自分のものにしたかった。
 距離がなくなれば、彼女が傍にいてくれれば、僕の人生はそれで満たされるはずだったから。






 その時はまだ、僕の願望は幻想に過ぎなかった。
 それは嫌だった。



 幻想のままで終わらせたくなかった――だから僕は動いた。






 彼女を苦しめるすべてのものから彼女を引き離して、そして僕の元へといざなう。
 たったそれだけのことで、僕も彼女も救われるはずだった。

 けれど現実として、それは叶わなかった。



 僕は悪者にされ、この暗く冷たい場所に閉じ込められた。



 彼女は壊れ、この先元に戻るかどうかはわからないと聞かされた。






 僕の行動は正しいはずだった。なのにすべてが僕らを否定した。






 その結果に、まず僕は呆然とした。



 そうした中、怒りは静かにこみ上げてきて、そして大きく燃え上がった。






 なぜ僕が悪いんだ。



 悪いのはオマエラだ。



 オマエラが彼女を苦しめ続けて、そして破綻させたんだ。

 けれどもう、どうしようもなかった。
 今の僕にはもう、何のチカラもない。どうすることもできない。

 ただ、いつか再び外に出たときのために、ココロの刃を研いでおくだけだ。

※お題バトル参加作品
テーマ:非日常
お題:幻想 呆然(茫然) 復讐 道端
参加者:JINROさん 月葵さん 神秋昌史さん 竹田こうと

PREV NEXT
         10 11 12 13 14
BACK NOVELTOP SITETOP