かけらのみたゆめ

 いつの間にか、僕はそこにいた。
















 そこは、白い空間。白いだけの空間。
















 前後、左右、上下、目が届く限りのどこを見回しても、白、白、白一色。




 白くないのは、僕の手足、髪の毛、体だけ――なんだけど、それすらもうっすらと白いベールをまとっているかのように、ぼんやりとして見える。




 あるのは白と、僕の体。それ以外には、本当に何もない空間。
















 以前にも見たことのある夢、だった。
 浩都と出会った時、そして宮月と出会う前のあたりから、何回かこんな感じの夢を見た。




 けれど、僕を含めた3人が出会って、繋がりを築いて、一緒にいることが多くなってから、逆にこの夢は見なくなっていた。








 それを、どうして今また夢見ているんだろうか。




 そもそも夢だから、わからないことがわからないまま終わるのは、当たり前と言ってもいいくらいだけど、それでも疑問となれば考えずにはいられなくなる。特に、今のところはこの真っ白な空間に、僕以外の誰も存在していないようだから、なおさらだ。








 今、この空間の中で、僕はまっすぐに立っている。
 足の裏に、固い地面の感触を感じて。床を踏みしめて、立っている。
 ふわふわ浮かんでいるのでも、羽を生やして飛んでいるのでもなく、僕は立っている。




 地面と空中の境目を、目で確認することはできないけれど――この白い空間は、それほどまでに白かった。








 そしてその中で、僕だけが白くなくて。




 まるでこの空間の中心が僕という存在であるような気がしたり、あるいは僕という存在がこの中でたったひとつの染み汚れのようなものにも感じられて。

 このままここにいると、僕自身もこの空間の白に取り込まれ、塗りつぶされてしまうんじゃないかと思って。

 そうなったとして、僕はただ白くなっただけだろうか、それとも空間に取り込まれ、いなかったことになるのか。




 どちらにしても、僕までもが真っ白になったら、次にこの空間にやってくる人間は、僕の存在に気づいてくれないかもしれない。








 自分に対して、ある意味ではひどく馬鹿げた心配をし始めたころ。




 いつから現れていたのか、真っ白い空間の中に、ぽつんと浮かび上がっている黒い点を、真正面に発見した――ただの黒い点じゃなくて、よくよく見るとそれは少しずつこっちに近づいてきていた。

 大きくなってくるにつれ、動きがはっきりとしてくる。その点は、僕に向かって歩いてきていた。








 やがてその黒い点に見えたものは、僕の間近で足を止めた。
 間近で見ると、それは黒以外にもいろいろな色をまとっていた。発見した時は遠目だったのと、周りが白すぎたせいで、ただの黒点にしか見えなかっただけで。




 それは、僕の真正面で嬉しそうに微笑んだ。
















「こっちで会うの、久しぶりだね、漂くん?」




 宮月はそう言うと、そうするのが当たり前みたいにちっとも躊躇することなく、僕に抱きついてきた。
 受け止めつつ、僕はへなへなとその場に座り込んだ。自然、彼女と一緒に地面に寝そべる格好になる。
















「……こういう夢自体、しばらく見てなかったんだけど」




 質問をするような感じで言ってみながら、僕は宮月の顔を見た。彼女は僕にくっついて気持ち良さそうにしている。言葉ちゃんと聞いてたのかなと不安になりかけたが、

「奇遇だね、あたしもしばらく見なかったよ」

 疑問にすら思っていないような口調で、そんな言葉が返ってきた。その傍ら、宮月はさらに僕に擦り寄ってくる。
 綺麗だなと一目見て思うような彼女の長い髪が、蜘蛛の糸みたいに僕にまとわりつく。

 彼女を抱きとめつつ、まとわりつく髪を掌の上で滑らせて玩びつつ。そうしているだけで気持ちがよくて、考えることがどんどんどうでもよくなっていく。








「……あいつも、来るかな」




「……来るかなあ。あなたとあたしと、残った1人」








 この空間を知っているのは、あと1人いる。僕も宮月も、揃ってそいつのことを思い浮かべたらしい――そのタイミングは単なる偶然なのか、夢ゆえの必然だったのか。








 いきなり背中に衝撃を感じて、僕は軽く咳き込んだ。後ろから誰かに体当たりされたような感じだった。








「あ、あーあー……漂くん、大丈夫? ちょっと、浩都くん!」




 宮月が、叱るような響きで相手の名前を呼んだ。




「だって、2人だけでそんなにべったりくっついてないでさー! おれもまぜてまーぜてー!」




 噛み付くような、浩都の声が響く。仲間外れにされたのかと思って、怒ってるんだろうか。

「だって、来るの遅いじゃない。あたしたちだって、待ってたんだよ?」

「でも2人だけ気持ちよさそうなのずるいもん」

「そんなこと言わないでよ……いらっしゃいな」

 ようやく呼吸が落ち着いた僕を挟んで、宮月と浩都はそんな会話を交わす。




 結局、浩都は僕と宮月の間に割り込む形になった。僕と宮月が、浩都をサンドイッチしているみたいになった。








 この白い空間に現れた時の顔は見えなかったけれど、行動といい口調といい、怒ってるんだろうなというのは感じていた。

 けれど今はそんな様子もなく、あったかいと言って、無邪気な笑顔を浮かべて気持ちよさそうにしている。その笑顔を見て宮月はいとおしげに微笑んでいたし、僕は僕で表情が緩んでいるような感じになっていた。
















 どこまでも、果ての見えない真っ白な空間の中で。








 僕ら3人は何もせず、ただただお互いの体を寄せ合って気持ち良さそうにしながら、その場で寝そべっていた。













お題バトル参加作品(掲載時修正あり)
テーマ:白
お題:羽 糸 無邪 穢れ 空間
参加者:哉桜ゆえさん、無我夢中さん、久能コウキさん、siganeさん、竹田こうと
BACK NOVELTOP SITETOP