ガシャッ。










 ヒュッ。










 ガシャッ。










 ヒュッ。



















 ほぼ一定のリズムで、2つの音が交互に響く。
 片方は、スプリングの軋む音。もう片方は、跳んでいる最中の俺の口笛。
 2種類の音が一定のリズムで響く中で、俺の体は空中をくるくると舞う。




 浮かんでいられる間に、自分自身としてはどれだけ動けるか。周りから見ている人間としては、どれだけ俺の動きが綺麗であるか。
 その限界に常に挑み続けるように、俺は跳び続けていた。





























「よう進悟(しんご)、調子はどうだ?」



 休憩中に、軽い調子で声をかけられた。体育館の壁際に座り込んだまま、その方向に顔を上げる。
 同じタイミングで休憩中なのか、首からハンドタオルを下げた義貴(よしたか)の姿があった。



「順調だよ。演技の方、結構決まるようになったし」



 軽く答えた頃には義貴も俺の隣に座り、持っていたペットボトルのスポーツ飲料をぐいっと煽っていた。
 冷えた液体を喉に流し込んで一息ついてから、義貴は口を開く。



「ちぇ、そこでやばいかもとか言えば俺にはチャンスかもしんねーのに」



「なんだよ、ってことはお前もいい感じなのか?」



「当ったり前だろ。俺も前の大会じゃいいとこまで行ったんだから、そろそろ狙うぞ?」



 そう言って、義貴はにやりと笑みを浮かべる。負けじとなのか、自然と俺のほうも不敵な笑みを意識する。










 身近にライバルがいるからこそ、そいつに勝ちたいという願望を持って、俺は練習に真面目に取り組める。
 そういう意味では、義貴の存在はありがたいものだった。大会では争う相手になるけれど、だからこそ義貴もまた俺を意識する。



 今もそうやって、お互いに口だけは毒を撒き散らしながらも、休憩がてら会話を楽しんでいて。



 その最中、目の前では他のやつが空中高くに跳び上がっていた。
 さっきまでの俺たちみたいに、大会で良い成果を出さんとして、真剣に練習に取り組んでいる姿。



 そいつはまだ練習に入ったばかりらしく、自分の得意とする高さ、自分が得意とする位置に合わせようとして、ストレートジャンプを繰り返していた。



 その際に、空中に昇っていく時は両手を頭上に伸ばして、頂点に達したところでその両手を横に広げ。
 それはまるで、鳥が羽ばたいているようなイメージを連想させるもので。



 もっとも、実際に人間が鳥のように空を飛ぶなど、ありえないことではあるんだが。
 ありえないからこそ、願望として抱かずにはいられないのだろう。























 空を飛ぶ夢。



 本物のそれとはどんなに形が違っていても、どんなにうつろな夢であっても、人間があこがれ続けてきたもの。










 今という世の中はあまりにも技術が発達している。



 例えば、飛行機に乗って空を体験したり、上空からパラシュートを使ってスカイダイビングをしたりすることができるだろう。



 また、俺が選んだように、あくまでも自力で飛びたいんだという願望を持って、あるスポーツに挑む道もあるだろう――



 俺は中学に上がってから、トランポリンを選んだ。人が空中高くに打ち出される姿を見て、かっこいいと思ったのがきっかけだった。




















 けれど、結局人間自身は、鳥のように羽ばたいて空を飛ぶことはできない。



 トランポリンで空中高くに上がっても、すぐに落ちてきてしまう。
 スカイダイビングは、実際にはただ地面へと猛スピードで落ちていくだけ。
 飛行機の羽は、鳥のようには羽ばたけない。人間は、重力という名の篭から逃れることができない。




















 だけど、今までも不可能だと言われたことは歴史の上ではいくつもある。
 不可能だと言われたのに今では可能になっていることだって、たくさんある。



 それに、不可能だと言われるからこそ、人間は夢見ることをやめないんじゃないかと思う。
 不可能なはずのことを可能だと体験するために、様々な可能性を模索して、光明を探して。




















 人間は、本当の意味で鳥になることはできない。
 けれど、鳥になったような気分を味わおうというなら、方法はあるだろう。
 トランポリンを長く続けているうち、俺はその思いを確信として持っていた。



 トランポリンを使って、空中に跳び上がること。
 空中に浮かんで、その高さから地面を見下ろすこと。
 そして、空中で出来る限り美しく舞おうとすること。



 そこには、地上にはない快感と言えるようなものがあった。
 ああ、俺は今鳥になっている、などと冷静に振り返ればナルシストのようなことを普通に思っていることすらある。
 そう言った快感を得ることが、人間の持つ鳥へのあこがれの、俺にとっての1つの終着点なのかもしれない――
 もっともこれは思想的なものであって、スポーツ選手としては俺はまだひよっ子なんだと自分に言い聞かせることも、忘れはしない。








































「なあ、義貴」










「なんだ、進悟」










「今度の大会よ、絶対俺ら2人で他のやつらびびらせてやろうぜ?」










「へ、望むところだ。お前、足引っ張んじゃねーぞ?」










「こっちの台詞だよ! 気合入れてくぞ!」










 言い合って、俺は義貴と思いっきり手を叩き合わせた。




















 それからどちらが言いだすまでもなく、休憩終わりとばかりにどっちも立ち上がって、空いたトランポリンの方に歩いていった。








































 ガシャッ。










 ヒュッ。










 ガシャッ。











 ヒュッ。




















 もうすぐ、トランポリンプレイヤーにとって大きな大会がある。それに向けて、俺たちは今日も練習に励むのだった。





























お題バトル作品
テーマ:かごのとり
お題:うつろ 願望 出口 ひかり
参加者:空也さん 神秋昌史さん 月葵さん 竹田こうと


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